新型コロナウイルス感染拡大の影響により、突如として私たちの日々の暮らしは変化を余儀なくされました。
その中でもリモートワークの普及は今後の住宅設計大きな影響を及ぼす出来事だったと言えます。
そこで、私達が設計した住宅で生活する家族がどのようにリモートワークに対応しているのかインタビューし、新しい家のあり方を考える連載を始めます。
実際に私たちの事務所でも自宅でのリモートワークを実践し、自分だけの仕事部屋の確保だけでは不十分で他の家族との関係がとても重要であるということを実感しました。
子供が一日中家にいて仕事ができなかった人や、夫婦間で休日とは異なる生活リズムに戸惑った人は少なくないと思います。また一人暮らしでも家の間取りによっては、どのように仕事とプライベートをわけるのか悩んだ方もいるかもしれません。
今回取り上げる住宅は2017年に都内から大自然に囲まれた八ヶ岳の麓、山梨県北杜市に移住した夫婦と子供(5歳)の3人が暮らす「Tab House」という住宅です。
設計当初からワークスペースを計画し大きな吹抜けを介し1階のLDKや和室、2階のワークスペースやセカンドリビングが立体的につながり、大きな部屋の中でお互いが別のことをしながらも一体感がある、広場やカフェのような場所を目指して設計しました。
(詳しくはhttp://ineyama.jp/2017/10/03/tab-house-2/より、この記事を下にスクロールすると平面図もご覧頂けます。)
竣工当時のTab House(2017年竣工)撮影:鳥村鋼一
家を建てる当初2階のワークスペースは、あくまで非常時や労働時間外の作業部屋、または家事や育児の合間の時間に奥さんが仕事をする場所という位置付けでした。
しかし、2ヶ月ほど前からご主人が平日毎日、自宅でのリモートワークとなり夫婦の日常的な仕事場になっています。そんな生活の様子を伺いました。
「住宅の特徴である立体的なワンルームは、どこにいても家族が何をしているかがわかるので、家事や子育ての合間にパソコンで仕事をしている妻はいつでも子供の様子を伺うことができるので特に良い環境だと思います。さらに子どもも大人の様子を見ることができるので、父ちゃんが仕事してるから少し静かにしようと少し気をつかってくれている様子なので部屋がつながっていることはリモートワーク中でもお互いにとって良い環境だと思いました。」(ご主人)
また、ワークスペースに造り付けたL字のデスクは、家の中心を向くことでアイランドキッチンのように家族を見渡せるので奥様としては嬉しい配置だったようです。また、デスクと壁一面の棚を造り付けにしたことで部屋の大きさを無駄なく活用できているとのことでした。
今までの家で計画していたデスクスペースの様な場所よりもリモートワークのスペースは滞在時間も長いので、家具のつくり方も少し変わってくるかと感じました。
Tab Houseのワークスペース
北側のデスクは作業の合間に窓から森を眺め目を休めることができ、
吹き抜けに面したデスクからは家族の様子を見ることができる
撮影:鳥村鋼一
「オンラインミーテイングの時に子供が画面に入ってきたり隣でタブレット等をいじっていることもあるが仕事相手も同様で、今後はこのように子供の気配を感じながらの打合せも一般的になると思います。同じ家で過ごしているので、必然的に仕事とプライベートが混じり合った生活になっていくと思います。」(ご主人)
「ほとんどの部屋が繋がっているため、部屋ごとの寒暖差がないのでどの部屋も季節に関係なく居心地が良いです。どの部屋もつながっているためどこにいてもwifiの速度が良好です。」(ご主人)
部屋がつながっているため夜仕事をする時に音が響くことが気になるようですが、その時は2階の客間を利用するなど工夫して過ごしているようです。縁側を宅配ボックスの代わりに荷物を置いてもらう場所にして配達員との接触を避けるこの地域らしい感染対策も可能性を感じました。
ワークスペースよりダイニングを見る
奥様は家族の様子を伺いながら家事や子育ての合間にイラストを描く仕事をしている
撮影:鳥村鋼一
自宅でのリモートワークを想像すると、いかに集中できる空間をつくり出すかに重きを置きがちです。
しかし、壁のないこの家の間取りを逆手に取り仕事とプライベートが溶けて混ざり合う生活を実践しているのがとても印象的でした。
インタビューをしてもしかしたら少し先の未来では、仕事とプライベートの間に線を引くという概念がなくなるかもしれないとさえ感じました。
また、旦那さんは「webの仕事は自宅で不自由なく作業ができるイメージだが、会社内で同じ空間を共有して行う方が良い作業もあり、可能であれば出社して仕事をやりたい気持ちもある」と集まって仕事をする必要性も感じていました。
リモートワークの普及は、集まって仕事をすることが当たり前でないことや住空間で仕事をすること、もしくは仕事とプライベートの関係など様々な問いを私たちに投げかけました。
私たちは普段提案をする側ですが、クライアントの生活から大きな刺激を受けることが多々あります。
リモートワークに関しては私達も始めたばかりであり、今後もクライアントと一緒に少し先の未来を想像しながら建築を考えていきたいと思います。
1階平面図
2階平面図