立面の家
常に更新し続ける東京の都市で、何十年と変わらず存在するものを頼りに設計することはできないか。
敷地は目黒区の住宅密集地で、西側の2項道路と北側の幅員4.3mの道路に囲まれた角地。建主の奥さんが育った住宅の建て替え計画であり、既存住宅はミニ開発によって南と東の隣家と同時に建設された建売住宅のひとつだった。南側と東側の3階建ての隣家は、部分的に敷地境界線に接するほど計画地に迫っていて、採光条件が厳しい。また、北側と西側の2面道路は、道路の反対側に小学校があり、道路との関係を慎重に決める必要があった。
周辺隣家は最低限度に近い敷地面積に分割された敷地のため、今後も法的条件から導かれる最大ヴォリュームの住宅が建つことが予想されるが、建物が更新されても残る斜線制限による南側隣家の上空の余白は、計画地に光をもたらす数少ない資源である。
求められる諸室と法的条件から、3階建ての建蔽率の上限に近いヴォリュームが必要であった。そこで、光や風景を内部に導くため、南側隣家の上空の余白に向けてぽっかりと開いた巨大な開口を設けた。構造は鉄骨造とし内部は巨大な開口に面した1階玄関からロフトまで4層吹抜けの大きな空間と、異なるレベルのスラブからなる2階、ふたつのボックスを屋根面から吊り材で指示する3階で構成する立体的なワンルームとした。主な諸室は4層吹抜けの空間に面し巨大な開口を共有することで、余白やその先の風景へと繋がり、吹抜けを介して常に家族の気配を感じることができる。さらに、各部屋を縫うように導線を計画し、道路からロフトまでのシークエンスにおいて敷地周辺や内部の風景を立体的に体験することができる。
大開口からは常に室内へ光が注がれ安定した室内環境をつくる。今後もこの南側立面は都市の変化に動じることなく常に家族の拠り所となるだろう。
計画地:東京都目黒区
竣工:2019年4月
用途:専用住宅
規模:鉄骨造3階建て
敷地面積:66.01㎡
建築面積:43.92㎡
延床面積:103.89㎡
設計:稲山貴則建築設計事務所
施工:伸栄
構造:BSI
撮影:鳥村鋼一
掲載誌:新建築住宅特集 2020年4月号、建築知識2020年12月号、居心地のいい家をつくる 注目の設計士&建築家100人の仕事
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